平成30年5月5日の保存修理工事現場公開では、屋根板を作る工程や葺(ふ)く作業もお見せしました。
当日、職人さんが披露してくれた作業の流れを紹介します。
まずは30cm程の輪切りにした杉丸太から屋根板を作ります。
刃物を当て
そこに何度も木槌(きづち)を振り下ろして刃を食い込ませ
割ります。
円柱状の木材を真ん中で割って半分にし、更にそれを3分割。計6つに割られた形がみかんの房に似ていることから「みかん割」と呼ばれます。
6分割されてみかんの房状になった木材に定規を当て、切る位置を決めます。定規に目盛りはなく、代わりに板の厚さの分のL字型の切れ込みが隅に付いていて、木材に当てるだけでどこで切ればいいのかが分かる仕組みです。
先程の刃物と木槌とで、板を更に割っていきます。
1枚取ったら次は反対側から1枚取ります。目の詰まった板を一枚でも多く取れるように、互い違いに板を取っていきます(下図参照)。
天台寺本堂の屋根に用いる厚さだと大体4組程度取れます。
板の端にある、白太(しらた)と呼ばれる部分を切り落とします。こちらは木の皮のすぐ内側に当たる部分。
こちらは木の芯(しん)に当たる、割れやすく目が粗い部分。どちらも板材として用いるには耐久性が低いため、切り落としてしまいます。
今回は省略していますが、本来はここで切断面に鉋(かんな)を掛けるなどをして整形する作業を行います。
次に、立てた板の真ん中に刃物を当て
木槌で叩いて刃を食い込ませると、そのまま割台(わりだい)という器具に移動させて固定し
手首を返して割ります(この作業を2回繰り返して、天台寺本堂屋根に用いる厚みに変えます)。
最後に、銑(せん)という両手持ちの刃物で板を削ります。これは、板が手割なので、極端に凹凸のある面を調整します。
また、銑掛けは、表面を滑らかにするとともに、上から下にかけて徐々に薄くなるよう厚みを調節しています。これは板と板とがぴったりと重ならないようにわざと隙間を作り、雨に濡れた後の乾きを早め、傷みにくくするための工夫です。厚い方を下向きにして葺きます。
こうして出来上がった板を十分に乾燥させて、完成します。
屋根を葺く作業は、左手で板を押さえながら右手で金槌を振ります。これを屋根という不安定な場所でも効率良く進めていくため、職人さんは板を留める竹釘を自分の口の中に収納して、次のような手順で屋根板を葺いていきます。
口の中に何本も含んでいる竹釘を、舌で向きを変えながら動かし、金槌を持ったまま右手で取り出して
金槌の柄(え)に付いている金属部分で押して板に突き刺し
叩いて留めます。この間ほんの数秒。その都度道具を持ち替えることもなく、流れるような手際であっという間に打ち終えてしまいます。しかもこの状態で普通にお話もできるのですから驚きです。
竹釘は、竹という素材自体が元々丈夫な上に、加工する際に焙煎処理も施しているため、長い年月を経てもほとんど傷みません。また、金槌で叩かれて頭が潰れることで抜けにくくなります。
職人さんや地域によって手順、呼び方などに違いはあるようですが、天台寺の保存修理工事ではこうした流れで作業が行われています。
受け継がれてきた技術や道具があり、受け継いできた人達がいて、何百年も前の建物が現代までその姿を留めています。
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